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東京高等裁判所 昭和56年(ラ)233号 決定

抗告人

アライ マサミ

相手方

東京都江東区長

小松崎軍次

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「即時抗告申立書」及び「即時抗告理由書追完申立書」(いずれも写)記載のとおりであるが、右理由の要旨は、(一)相手方は、抗告人が昭和五三年九月七日フィリッピン国マニラ市の郵便局から東京都江東区役所に宛てて郵送し、同五四年三月二七日同区役所に到達した同五三年九月七日付婚姻届書による婚姻届(以下「本件婚姻届」という。)に対し、不受理処分をしたが、相手方は、右処分をする前に抗告人に対し、抗告人がその本国法の要求する婚姻の実質的要件を具備していることの証明の補正を催告し、又は右補正をする機会を与えるべきであつたにもかかわらず、これをしていないから、右不受理処分は違法である、(二)婚姻届の不受理処分は裁量行為であるところ、本件婚姻届の不受理処分は、相手方が裁量権を濫用してした違法なものである、(三)右不受理処分は、アメリカ合衆国の国籍を有し、外国人登録証明書を持つ抗告人を、セイロン人、インドネシヤ人及び中国人より不利益に扱つてしたものであるから、憲法一四条に違背する違法なものである、(四)抗告人は、前記昭和五三年九月七日付婚姻届のための特別宣誓書(抗告人が、アメリカ合衆国の領事の面前で、その本国法によつて要求されている婚姻の実質的要件を具備している旨宣誓供述したもので、領事の署名がある昭和五四年四月一一日付書面)を相手方に提出したが、これは本件婚姻届を補正するためのものであるところ、相手方は本件婚姻届と別個の婚姻届として扱つたのは違法である、(五)本件婚姻届に受付印の押捺がなく、受付年月日の記載がされていないが、これは戸籍法施行規則二〇条一項に違背する違法な措置であるとし、以上のように本件婚姻届の不受理処分は違法であるところ、これを適法とした原決定は違法であるから取り消されるべきである、というものである。

二しかしながら、抗告人の右(一)の主張は、戸籍事務を管掌する市区町村長に対し、抗告人主張のような義務を課した規定はないから、採用の余地のないことが明らかであり、右(二)の主張は、婚姻届の不受理処分が自由裁量処分であることを前提とするものであるところ、右不受理処分は自由裁量処分ではないから、その前提を欠くものとして理由がなく、また、記録によれば、右(三)において抗告人が主張するセイロン人、インドネシヤ人及び中国人の事案は、いずれもその各本国法に基づく婚姻の実質的要件が証明された婚姻届に関するものであり、この証明を欠いた本件婚姻届と事実関係を異にし、前者の婚姻届が受理され、後者の婚姻届が不受理とされたのは、もつぱら右事実関係の相違に基づくものであつて、婚姻当事者の国籍の相違に基づくものではないと認められるから、本件婚姻届に対し不受理処分をしたことを平等原則に反するものとはいえず、したがつて、右(三)の主張も採用することができない。また、抗告人の前記(四)の主張は、記録によると、前記特別宣誓書が相手方に対して提出されたのが本件婚姻届について不受理処分がされたのちであり、したがつて、本件婚姻届を補正するものとして扱う余地のなかつたことが明らかであるから、到底採用しうるものではなく、前記(五)の主張は、不受理処分の対象とすべき婚姻届には戸籍法施行規則二〇条一項の適用がないから、採用の余地がない。以上のとおり、抗告人の主張は、すべて理由がなく、記録を精査しても他に原決定を取り消すべき理由はない。

よつて、主文のとおり決定する。

(園田治 菊池信男 柴田保幸)

即時抗告申立書、即時抗告理由書追完申立書〈省略〉

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